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zoom RSS 自転車の左側通行で、死者は半減するのか?検証疋田智説

<<   作成日時 : 2017/12/14 01:27   >>

なるほど(納得、参考になった、ヘー) ブログ気持玉 7 / トラックバック 0 / コメント 0

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私の住んでいる住宅地は自転車の事故が多く、死亡事故も度々発生している。
小学生が亡くなった事もあるし、入学して間もない女子高生が亡くなった事もある。
どこにでもある様な、生活道路が碁盤の目のように造成されている割と静かな住宅地で、クルマも歩行者もたまにしか通らないのだが、それゆえに油断して、すうーっと交差点に入るとタイミング次第で重大な事故が起きてしまう。
前回までに紹介した150件の自転車死亡事故においても、信号の無い交差点で起きる出会い頭事故は最も多い割合を占める。
典型的な一例を紹介しよう。


昨年10月の正午過ぎに板橋区常盤台で起きた事故で、自転車に乗る60代女性が軽貨物車と衝突して命を落としている。
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私の住む町内でも、この手の事故が多く、なんとかならないものかと長いこと思ってきたが、そんな中、出会い頭事故の死者を3分の2にまで減少できるという驚きの説が出回っていることを知った。

驚嘆の疋田説

自転車の安全鉄則 疋田 智 朝日新書 https://publications.asahi.com/ecs/detail/?item_id=9911
その本の帯には大きく「左側通行さえ守れば、年間約400人の命を救える!」と書かれている。
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これは本当なのだろうか。本の前書きには次のように書かれている。

自転車は、車道、歩道を問わず「左側通行」さえ守れば、年間に400人程度の命を救うことができるのです。これはにわかには信じがたい話かもしれませんが、きちんと根拠のある話です。
しかもこの左側通行の徹底は、道路工事などのようにお金や時間のかかることではありません。国民への周知徹底だけで可能です。
これなどが、いわばトリアージ・カテゴリー1。つまりまず最優先に手を付けるべきことなのでしょう。


本文には、その具体的な根拠が分かりやすく説明されている。
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左側通行をする自転車は、AもBもCもDも視認が可能です。(中略)ところが問題はEの自転車なのです。このEの自転車は、ドライバーにとって、交差点に出てくる直前になるまで、まったく見えない自転車となってしまいます。

元の説明が長いため要約すると、逆走のEの自転車は電柱やガードレールなどの死角になり、特に歩道を走っているE’は心理的死角にもなり危険であると警告している。
逆にDについては、危険そうに見えてもドライバー側から認識しやすいため対応が可能とのこと。

出会い頭事故が、すべての事故の中の71%を占めている事が分かりました。この71%のすべてがすべて、右側通行が原因と言うつもりはありませんが(データが公表されていないのです)、少なくとも3分の2から4分の3程度を占めているのではないかと私は考えています。だれもが実感として「その程度だろう」と納得するあたりではないでしょうか。
毎年800人前後が亡くなる自転車の死亡事故。この半数を減らすことができるというのは、決して過言ではないのです。

きちんと根拠がある。として始まった話だが最後の方は、データは無いけどたぶんコレくらいでしょうか?と言う、どんぶり勘定感が否めないが、これらの疋田説は本当なのだろうか?
出版された頃と現在では年間の死者数が違うが、右側通行による死者がどれくらいを占めるのか、検証してみたいと思う。

本当に死亡事故の約半分?

私が収集した150件の死亡事故を対象に、その件数をカウントしてみよう。(150件については当シリーズ1を参照)
まず信号の無い交差点から(駐車場の出入口も含む)
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信号の無い交差点での事故は49件あったが、自転車が右側通行をしていたものは7件、不明が2件である。
ただし、下の図のように細街路から優先道路を横断しようとしたケースが最も多く、左側通行を守っていたかどうかは、あまり関係がないように思える。事故を減らすためにもっと大切なことがありそうだが、それについては、後述する。
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信号交差点ではどうか?

信号交差点の出会い頭事故に関しては言うまでも無く、どちらかの信号無視が主要因であり、左側通行さえ守っていれば安全というものではない。(全事故概要図は当シリーズ(2)に掲載)
右左折時に関しては、クルマの流れと逆方向に横断していた自転車を右側通行とするならば、左折時1件+右折時4件の計5件の死亡事故が起きている。
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このへんの事は詳しく当シリーズ(2)で書いたとおりで、上図のE’からの横断が特に危険だとは思えないが、一応、右側通行だから起きた事故としてカウントに含める事にする。


単路ではどうか?
対向方向からの衝突が4件あり、これらは、すべて自転車が右側通行しており、それが事故原因と言ってよいだろう。
他に右側通行中に追突されたものが1件、右側通行からの斜め横断が1件。
一応これらも含めてみる。
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全体で言うと多めにカウントしても20件が右側通行が原因と思われる事故である。
出会い頭事故だけでなく、それ以外とさらに通行位置が不明なものも含めたが、150件の事故に対し、13%ほどであり、疋田氏の説には遠く遠く及ばない。
むしろ、疋田氏が少ないとする追突事故(19件)とほぼ同じ件数であった。

この本の出版は2008年で私の分析した150件の事故(2012〜2016年)とはタイムラグがあり、その間に自転車事故の死者は減少しているが、仮にこの死者の減少をすべて逆走が減ったためと仮定しても、数字的に疋田説は成立しない。

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公的なデータでは?

私の分析だけでなく、もう少し公的なデータで右側通行による事故の割合を紹介しよう。

少し古い2003年発行のデータになってしまうが、右側通行を区分したデータはあまりないのでこれを引用する。
イタルダインフォメーションNo.46より作成
https://www.itarda.or.jp/itardainfomation/info46.pdf

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右側通行による事故は、ほんの数パーセントといったところである。

警察庁データには、右側通行ではないが、通行区分違反の自転車死亡事故件数が記載されている。

平成28年における交通死亡事故について - 警察庁-pdfのP77より作成
https://www.npa.go.jp/toukei/koutuu48/H28_jiko.pdf

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通行区分違反とは、例えば、自転車が通行してはいけない道路や車線を走ったり、右側通行などをするとこの違反になる。
平成28年(2016年)の通行区分違反は3.9%となっていて、前述のイタルダのデータと整合性のとれた数字となっている。
ちなみに疋田氏が本書を出版した2008年は3.6%で、改正道交法により路側帯も左側通行になった2013年と翌年の2014年は2%台と若干減っているが、どちらにしても数パーセントと少なく、この10年間大きな変化はない。


疋田説だけが大きくかけ離れた完全に根拠のない話であり、デタラメと言わざるをえない。
いや、こんな面倒な検証をしなくても、日々の自転車事故のニュースを少し注意して見ていれば、死者の半数が逆走という説には首を傾げて当然である。

ちなみに圧倒的に多い違反は、上のグラフで分かるように安全不確認である。
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交差点に限らず、自転車が進む以上、左右であったり、時には後方であったり、顔を向けて他者を確認をする必要が生じるが、これを怠ると、この違反になる。
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では、なぜ疋田説に騙されてしまったのか。簡単に説明しよう。
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非常に説得力のあるこの図であるが、冷静に考えるとこのような場所は、あまり存在しないのだ。

例えば、上図のように歩道のある道路において、交通量のある交差点ならば普通は信号がある。そこでE’の自転車とクルマがぶつかったのならば、それは信号無視が原因に他ならない。
信号が無くても、普通はどちらかに、「止まれ」の標識、そして道路上にも大きく「止まれ」と書かれているが、疋田氏の図には、それが描かれていない。
下の図のような、信号も止まれ標識もない場所もあるが、幹線の場合は、通行優先順位がはっきりしている。クルマも速度が出ていて、すぐには止まれない中で、左側通行で飛び出せばOKというものではない。

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当シリーズ(1)で例示したように、幹線道路の信号の無い場所での出会い頭事故は自転車側が優先道路を横断したケースがほとんどで、右側通行よりも左右の確認不足が主な要因である。

では、それ以外の生活道路の交差点などでは、疋田説が主要因なのだろうか。
最近の研究で、これに疑問を投げかける非常に興味深い分析が発表されている。

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実は右からの自転車との死亡事故が多い

今年発表された出会い頭事故のデータによれば、意外にもクルマから見て、左からの自転車との事故が多い訳ではなく、特に死亡事故に限れば、右からの自転車との衝突が多く起きているのだ。
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もし疋田説が正しく、死角が最大の事故要因であるのならば、右からの自転車の方が認知されやすく、事故が少ないはずであるが、そうはなってない。
この分析結果について、イタルダと警察庁はそれぞれ次のような見解を示している。

イタルダ・インフォメーションNo.122自転車と四輪車の出会い頭事故
https://www.itarda.or.jp/itardainfomation/info122.pdf
日本では、四輪車は左側通行であり、左右方向から進行してくる自転車の見通しについて考えた時、一般に、左方向から進行してくる自転車に対しては、建物や塀などで遮蔽され、見通しが悪くなり、右方向から進行してくる自転車に対しては、対向車線の道幅の分、見通しが良くなると考えられます。
それにもかかわらず、事故の割合が左右同等となったのは、左方向の遮蔽物による物理的悪化の影響と同様に、右方向の見通し良好によるドライバの心理的慢心が影響したのではないかと推測されます。


警察庁交通局 平成28年における交通死亡事故について pdf25ページ
https://www.npa.go.jp/toukei/koutuu48/H28_setsumeishiryo.pdf
交差点直進自動車が右からの自転車と衝突しやすいと思われる要因
○自動車の運転者から見ると、左方向からくる車両に気を取られ、右方向から来る車両の発見が遅れがちとなる。
○フロントピラーやサイドバイザー(雨除けカバー)が死角となって、交差道路から走ってくる自転車などが隠れてしまう。
○すれ違い用前照灯の照射範囲は左右で異なり、車両右前方の照射範囲が狭くなっている。


疋田氏の言う物理的見通しの悪化だけが事故要因ではない事がはっきりと書かれていて、さらに、心理的死角が右方向にある点も疋田説と大きく異なる。
そして最大の事故原因についても言及している。
自転車と四輪車の事故200件のミクロデータにおいて、四輪車側に優先権があるケースが70%と圧倒的に多いという事実で、この事は私の収集した150件のデータとも整合する。要するに自転車側に停止標識があるケースがほとんどなのである。
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↑イタルダ・インフォメーションNo.122より

滋賀医科大学教授による、都内の信号のない交差点で行われた、ビデオ調査もこれらを裏付けている。
自転車死亡事故を分析してわかったこと〜約半数が左右の確認をせずに交差点に進入
http://healthpress.jp/2017/05/post-3000.html


左側通行も大切な事ではあるが、それ以上に出会い頭事故を減らすために重要な事は、交差点において自分と交差道路のどちらが優先かを理解し、優先で無い場合、安全確認を十分したうえで進行することである。
一時停止の場所からは、左右がよく見えない事も多いし、左側通行をいくら守っても、確認せずに飛び出したら、クルマだけでなく右側通行の歩行者との衝突もありうる。
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2つの問題点

右側通行は危険なことに変わりはないのだから誇張して伝えても問題ないと思われる方もいるかもしれない。
しかし、問題点は2つある。
ひとつは、施策を考える時に、間違った方向へ進む可能性がある点だ。
疋田氏は、同書の中で、右側通行のありえない程の危険性をかざし、歩道通行や各地の自転車道を非難しているが、何かの方策を考える場合、完璧な方法というのは普通存在しない。
ある方法をとれば、あるタイプの事故は減らせるだろうが、別のタイプの問題点が懸念される。利便性だって全く無視して言い訳ではない。
そんな中でメリット、デメリットを考慮しながら、最善の策を探していくのが交通施策である。
ひとつの危険性を誤魔化してしまうと、正しい比較は無理なのだ。
これについては以前書いた記事「相模原自転車道の新規開通部分と双方向考察」を参照して欲しい。
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もうひとつの問題は、大幅に誇張するということは他の要因の危険性が過小に伝えられる事になる点である。
事実、疋田氏の著書「自転車の安全鉄則」には、その題名とは裏腹に、全245ページ中、「安全確認」「一時停止」については一切触れられていない。
本の帯にも、「左側通行さえ」と書かれている。
「さえ」だ。
もし疋田氏が、安全不確認や信号無視、一時不停止による事故の多さを同時に語ったら事故割合として辻褄が合わなくなってしまう。
疋田氏が委員を務めて発行した「京都・新自転車計画」は、本編が64ページもあるが、車道左側通行が、なぜ安全のために重要かという事に多くのページを割き、そのための教育、イベント、調査、道路整備、取組み計画について書かれたページは20ページにもなるが一方で、「安全確認」については、全ページに一箇所も出てこない。
他の自治体資料や各種記事でも同様の傾向は度々見かける。
例えば、相模原市のHP 市内で自転車を利用される方へ 自転車の安全適正利用
出会い頭事故の多さを認識しながらも対策の軸が車道左側通行におかれているのは、安全確認の大切さを痛感してきた私からすると大変残念である。(ただし、県内や市内の事故を独自に分析し、実情を正しく伝えているHPもある)
現在、全国で広報啓発の柱になっている「自転車安全利用五則」も、有識者である疋田氏や古倉宗治氏の主張「歩道より車道の方が6.7倍安全」「左側通行さえ〜」を強く反映した内容で、車道走行を促す内容が先に立ち、「安全確認」はなんとも小さく、一応入っている程度である。
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大阪市ホームページより
私自身も逆走している自転車に遭遇し、怒りを覚えることもあり、左側通行の啓発は大いにやって欲しいが、疋田氏の言う「トリアージ(国民に周知する優先順位)」は、間違っていないだろうか。
安全確認は、歩く時も同じように必要なため、子どもにも一番に身につけて欲しいと思う。
今まで当ブログで行ってきた、他の検証とあわせて考えると、私には疋田氏が本当に事故を減らしたいのではなく、自分に都合の良い環境を手に入れるために、作り話を広めているように思えてしょうがないのである。

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当シリーズのリンクです。

150件の自転車死亡事故を分析する(1)信号無し交差点・追突事故
http://otenbanyago.at.webry.info/201703/article_1.html

150件の自転車死亡事故を分析する(2)信号交差点
http://otenbanyago.at.webry.info/201704/article_1.html

150件の自転車死亡事故を分析する(3) Out of Control
http://otenbanyago.at.webry.info/201704/article_3.html

150件の自転車死亡事故を分析する(4)単路
http://otenbanyago.at.webry.info/201705/article_1.html

150件の自転車死亡事故を分析する(5)単独事故
http://otenbanyago.at.webry.info/201705/article_2.html

150件の自転車死亡事故を分析する(6)対歩行者・自転車相互
http://otenbanyago.at.webry.info/201709/article_1.html

150件の自転車死亡事故を分析する(7)その他
http://otenbanyago.at.webry.info/201709/article_2.html

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